あわれ彼女は娼婦

シアターコクーン。そういえば蜷川さん初めてかもしれない。

深っちゃんがめちゃくちゃ可憐で輝くばかりに美しかった(好きなの。すみれさん)。冒頭はすごく若い喋り方で驚いたけど、恋が成就したあとは強さというか潤いというかが加わって、違和感はなくなった。
三上さんは凄絶だった。苦悩はしているけど、一直線だった。妹も一直線だった。まっすぐに走り抜けて行った兄妹だった。純な愛と書いて純愛。
意外だったのが谷原章介。前歯がキラリン☆専門の人かと思っていたら…髪の毛ざっくり後ろに流した余裕綽々な青年貴族姿がものそい舞台映えするんですけど!さらに後半の憎悪に燃えた狂乱の姿があまりに美しいんですけど!びっくりした。映像で見るより数段色男…。思わず釘付けでした。
でもだからといって、アナベラはジョバンニじゃなくてソランゾを選べばいいのにとは思わない。ジョバンニとソランゾそれぞれから受ける印象は見事に次元からして違って、客観的にどちらが優れているとかいうものではなく、とにかくアナベラはジョバンニが好きなんだからしょうがない。お二人は永遠の愛で結ばれているのです。ああつまりソランゾは社会人としての常識の範囲でアナベラを愛しているけど、ジョバンニは妹こそ全て、その他の一切は、2人を否定する世界は、何もかも雑音なのね。だから立ち位置が違って見えて当たり前ね。わたくし仲が良くも悪くもないフッツーの弟がいるせいか、近親相姦ものに食指は全く動かず、ナイナイあり得ないって感じなのですが、見ているうちに「兄妹で何があかんの?」と思えてくる。カーテンコールで腕を組んで去ってゆく2人に、良かったねえ…と涙が(いやいやめいさんお芝居は終わってますよ)。

なんだかすごい迫力の舞台でした。周りの役者さんたちもよかった。ジョバンニの恋を宗教によって改めさせることができなくて動揺する修道士とか兄妹の恋をそっと容認する乳母とか手段を選ばず若主人に忠誠を尽くす老従者とか。七光り三度笠の再来かと思った純粋なバカのお坊ちゃんとか。下ネタまじりの長い軽口といいこのエピソードいるかしら?といういくつもの筋が盛り込まれた展開といいおいおいえらいことなってるよと笑えてくるほどの惨劇といい最後に突然イタリアとスペイン云々と出てくるのといい、ああいかにも400年前のお芝居だなあと思いますが、人物達は生き生きと存在し、そして激しく消えてゆきました。